仙台高等裁判所 昭和25年(う)112号 判決 1950年7月31日
被告人
藤井正止こと
竹島正止
外一名
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は被告人等の負担とする。
理由
弁護人伊藤俊郎の控訴趣意第一点について。
起訴状には裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならないことは所論の通りである。然し、検察官が公訴を提起するに当つては、同種の犯罪につき同一の起訴状に依つてすると、別個の起訴状によつて為すとは、任意に決し得るのであるから、たとい被告人等が兄弟の関係にあるとするも、これを別個の起訴状に依らなければならない理由はないのみならず、検察官が被告人等を同時に起訴したことを以て、ただちに裁判官に予断を生ぜしめる虞があるものとは到底考えられないから、論旨は理由がない。
(被告人竹島正止の弁護人伊藤俊郎の控訴趣意)
第一点
青森地方検察庁八戸支部検察官は、被告人に対する窃盗の事実をこれと何等関係のない被告人藤井正美に対する他の窃盗の事実と共に一通の起訴状によつて同時に起訴したこと記録編綴の起訴状によつて明らかであり、右起訴状の記載によれば、両被告人は本籍を同一にし被告人正止は被告人正美の兄に当ることをたやすく推察することができる。(記録七丁、八丁裏以下)起訴状には訴因たる犯罪構成要件に該当する具体的事実を記載すべく、裁判官に予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し又はその内容を引用してならないことは刑事訴訟法第二五六条の規定するところであり、その趣旨とするところは捜査機関が一方的に作成した書類等の添附を禁止するにあること多言を要しないが、他面公判中心主義並びに性格証拠排斥の理由から被告人の経歴又は同胞の犯罪経歴等は右規定により、これを起訴状に記載すべきでないと解せられる。然るに右被告人に対する起訴状は被告人実弟正美を同時に起訴することによつて間接に右規定を潜脱し被告人の性格に関し裁判官に予断を生ぜしめる虞があり、公訴提起の手続が右規定に違反し、従つて本件公訴は棄却せらるべきである。